第二十八回 天国と地獄が同居しながらも、お祭り騒ぎをしているようだった

和田寺の住職は、タオ指圧/気心道の創始者、音楽家など、様々な顔を持つ遠藤喨及(りょうきゅう)さんです。

喨及さんにインタビューして、さまざまな質問に答えてもらいます。
一体どんな言葉が返ってくるのでしょうか・・?

遠藤 喨及
東京に生まれ、少年期をニューヨークで過ごす。浄土宗和田寺住職、タオ指圧/気心道創始者、ミュージシャン、平和活動家、ゲーム発明家など、さまざまな顔を持つ、タオサンガ・インターナショナル代表。 1990年頃より、北米各地、ヨーロッパ各地、中東、オセアニアなどの世界各地で、タオ指圧、気心道、また念仏ワークショップ等を行い始める。 また、それらの足跡によって、世界各地のタオサンガが生まれ、現在、各センターは、仏教の修行道場、タオ指圧*気心道などの各教室、海外援助を行っている。 遠藤喨及個人ブログページもご覧ください。 http://endo-ryokyu.com/blog/



第二十八回

――最初のインド旅行の体験をお聞きしているわけですが、「タイムマシンで時代を飛び越えた世界にでも行ったような感じ」というお話もありましたね。

住職:はい。たとえば、ブッダガヤからネパールに抜ける途中で泊ったホテルなんか、レンガが朽ち果てていて、がれきの山でできていたんですよ。

――ホテルですよね?

住職:まあ、一応、、、。そういえば「ゲイランド」という名前の ホテルでした。
アメリカだったら誤解しそうな名前ですね。

――ははは。

住職:とにかく“安けりゃ、どこでもいいや”って思って泊ったんです。

――安い、って?

住職:まあ、日本円で何百円かだったと思いますけど。

――なるほど、、、。

住職:で、ふと夜中に目が醒めたら、ネズミが足に乗っているんですよ。

――えっ!?

住職:で、慌てて飛び起きたら、チュウと逃げていくわけです。

――「チュウ」って!!、、。

住職:“うーん、こりゃ齧られたらまずいなー”と思いました。

――、、、ですよね。

住職:それで真っ暗闇の中でドアを開けました。
そして、持っているパンを、ベッドの近くからドアの外まで少しづつ置いて行ったんですよ。

――なるほどー。

住職:すると、「かさこそ」とネズミが1つずつ食べ始めて、だんだんドアに向かうわけです。そうして外のパンを食べ始めたら、パッとドアを閉めて、、。

――作戦成功ですね。

住職:ところが、ネズミに乗られていた足が、なぜか、翌日から重くなってしまいました。

バスに延々揺られてネパールについても、一週間ぐらいは足を引きずって 歩いていましたね。
うぅ、こりゃネズ公の毒だな、と思いました。
その時、“なんか、日本昔みたいな話だなー”となぜか思いましたね。

――サバイバルですね。

住職:その他、僕は大麻を買わないのに、いつも声をかけて来て、 なぜか親しくなった大麻売りの兄ちゃんがいました。

――何て、声をかけて来るんですか?

住職:「ハローこれは!」って日本語で大声で僕に叫ぶんですよ。 ただ、それだけ。

――はあ、、。「これは!」、ですか。

住職:大麻を見せるんで。

――なるほど。

住職:彼が“家に来いよ”と言うので行ったら、何と、泥をかためた家に住んでいたんです。

――泥をかためた家、、。

住職:泥でできているから、電気、水道など、家の中にインフラは何も ないんです。
土間以外の家具ももちろん一切ない。日本の漫画で言えば、 カムイ伝(白土三平)に出て来た、非人の家のような風景だと思いましたね。

――なんとなくイメージできます、はい。

住職:それで、本人は大麻売りなんかやってブラブラしているのに、奥さんは路上で土方やって働いているんですね。
まあ、家があるだけ良いのでしょうけど。

――なるほど、、。

住職:コルカタにはバスもありましたけど、バスは戦争難民が乗っているみたいに、ぎゅうぎゅう詰めで、乗ったら動けなくて大変でした。

――そんなに、ですか。

住職:はい、屋根の上にまで人がたくさん乗っていました。

――あははは!

住職:それで、移動の手段はもっぱら人力車でした。
これは乗るのにも 値段交渉が必要でした 。

――値段が決まっていないんですね。

住職:はい。で、今になって考えてみると、なぜあんなムキになったんだろう?と思うんですが、
10円20円の値段の折り合いがつかなかったり、あとで値段をふっかけられてリキシャ・マン(車夫)と大ゲンカしたり。
それだけで、もう、へとへとになっていましたね。

――ふふふ。激烈、、。

住職:それでもインド人の面白いところは、大げんかして罵り合っても、翌朝には「ハロー!」と満面の笑みをたたえていたりして、何だか憎めないんですよ。

――ははは。

住職:コルカタは街に人があふれていて、地を這うように押し合いへし合いで生きているという感じでしたね。
乞食の人と犬とが生存競争をかけた闘いをしているのは、見ていてつらかったです。
また、美少女が微笑みながら、路上に廃棄してある食べ物を拾って袋に入れているのも見ました。
何か見ていてつらかったなー。

――みんな、生きのびることに必死なんですね。

住職:でも、なぜか一日中お祭りをやっているような感じもあるんです。

――へぇー、不思議ですね。

住職:恐らく当時、宗教とあれほど一体となっている国はなかったで しょう。今もないかも知れませんが。

例えば、長距離バスの運転手は、神さまの写真を飾って、大音量で宗教音楽みたいに聞こえるインドポップスをがんがん鳴らします。
それで自信満々に、超スピードで疾走しているんです。
彼らにとっては、神さまが非常にリアリティを持っていて、何だか、街全体でお祭り騒ぎをしているみたいな感じなんですよ。

――なるほど、ねえ。

住職:僕らヒッピー旅行者が、日頃目にするのは、貧しく最底辺に 生きる人間の生活苦です。
僕らが出会う乞食の中には、障害ある身体を見せつけて稼ごうとする人がいます。
また、赤ちゃんの内に手足を切られて乞食にさせられながらも、堂々としている人もいるのです。
そんな中でも、なぜかどこか祝祭的なムードで、街が成り立っているんです。

――日本や欧米の画ー的な風景とは違って、多次元マンダラみたいな感じなんでしょうね。

住職:はい、ほんとうに不思議な感じでした。 ただハウラー駅に行ったときには、六道輪廻の地獄絵でも見ているようなすさまじい感じがして、たじろぎましたね。

――どんな感じなんですか?

住職:手足のない人、目をつぶされた人などが山のようにやって来るん ですよ。

――それは、、大変ですね。

住職:はい、肝をつぶしました。しかも電車はいつ出発するかもわからない。
数時間遅れなどはざらで、12時間遅れで着くなども当たり前でした。 (当時は)3日待ったという話を聞いたことがあるぐらいです。

――すごいですね。

住職:2等自由席は、どうやっても中に入れないように見えました。 完全な寿司詰め状態です。

――そんなのに、どうやって乗り込むんですか?

住職:ラグビーみたいに、突撃するんですよ。

――それで乗れるんですね(笑)

住職:まあ、何とか。それに、電車に乗れるというだけ幸せでした。

――なるほど、、。

住職:なにしろ、駅に住む乞食群たちのまるで地獄絵図のような光景を 見なくて済むのですから。

――きっと想像以上なんでしょうね、、。

住職:もっとも着いたら、また山のようなリキシャマンたちに取り囲まれて 身動きできなくなるんですが。

――はあ、、、。

住職:そんな光景の一方では、まるで天国のように優雅な金持ちの生活を、 時おり目にするんです。

――天国と地獄が同じ街の中で同居しているのですね。

住職:インドにいると、“まるでぬるま湯のような金満日本”と、“そういう日本に生まれた自分”を、見せつけられているといつも 感じていました。
「オマエは、一体何なんだ」と、自分の存在や生き方を、常に突きつけられながらの旅でした。
輪廻というものについても、本当にいろいろと考えさせられましたね。

―続く―