第三十三回 ドラッグ中毒者に間違われたのは?

和田寺の住職は、タオ指圧/気心道の創始者、音楽家など、様々な顔を持つ遠藤喨及(りょうきゅう)さんです。

喨及さんにインタビューして、さまざまな質問に答えてもらいます。
一体どんな言葉が返ってくるのでしょうか・・?

遠藤 喨及
東京に生まれ、少年期をニューヨークで過ごす。浄土宗和田寺住職、タオ指圧/気心道創始者、ミュージシャン、平和活動家、ゲーム発明家など、さまざまな顔を持つ、タオサンガ・インターナショナル代表。 1990年頃より、北米各地、ヨーロッパ各地、中東、オセアニアなどの世界各地で、タオ指圧、気心道、また念仏ワークショップ等を行い始める。 また、それらの足跡によって、世界各地のタオサンガが生まれ、現在、各センターは、仏教の修行道場、タオ指圧*気心道などの各教室、海外援助を行っている。 遠藤喨及個人ブログページもご覧ください。 http://endo-ryokyu.com/blog/


第三十三回

――前回のお話、リキシャ(人力車)のインド人との攻防戦?面白かったです。

住職:ははは、そうスか?

――攻防の末、やっと目的のゲストハウス(「久美子ハウス」)にたどり着いたんですよね。

住職:はい、ウワサの味噌汁につられまして、、、。

――で、どうだったんですか?

住職:いやー、どうだったもなにも、、、。
まず、入り口のところで、英語で「ここ久美子ハウスですか?部屋ありますか?」って言ったら、インド人のおじさんに日本語で断られまして、、、。

――ええー!?(笑)それは、またどうしてでですか?

住職:「あなた、ドラッグやってるでしょ。ウチはドラッグやっている人泊めないから」と言うんですよ。

――もしかして、ドラッグされていたんですか?

住職:いやー、むしろその逆です。僕にとっては修行の旅だったから。
インドに出発する直前に坊主頭にして、(軟派の不良だったから)16歳ぐらいから吸っていたタバコも止めていったぐらいです。

――なるほど、、、。

住職:旅の経費節約のため、食べ物も安食堂の一点張りで、インドにはお酒もないし、、、。

――ないんですか?ビールを見たことがあるような、、。

住職:あってもビールなんかが、宿代ぐらい高くて。というか、それほどの安宿に泊っているという言い方もできるんですが、とにかく念仏しながら、極めてストイック(禁欲的)な旅をしていたんですよ。

――では、なぜそう誤解されたんでしょうか?

住職:僕も不思議に思って、「僕はドラッグなんかやらない人間なのに、あなたがなぜそんなことを言うのかわからない。」と言ったら、「あなたの腕には、いくつも注射の後がある」って言うんですよ。

―― 、、、?

住職:で、自分の腕を見てみて、思わず吹き出してしまいました。

――何だったんですか?

住職:食あたりでよく下痢していたから、自分で観るツボに、お灸をバンバンしていたんですね。インドに艾(もぐさ)を持って来ていて。
お灸の小火傷で、白血球が増えるという効能もありますしね。

――へー、そうだったのですね。その頃からツボを、、。

住職:お灸でついた小火傷の痕を、サンチさん(久美子さんのご主人)に、ドラッグ注射の痕だと誤解されたというわけです。

――誤解が解けてよかったですね、ほんとに。

住職:それで僕は、「自分は東洋医学を専門にやっている者です。
これはお灸という東洋療法の痕なんですよ。」と言ったんです。
すると、今度は一転して、「おお、あなたは先生ですか!」と言われまして。
それで、宿に泊っている人みんなに、「この人は東洋医学の先生です。みなさん、この人のことを先生と呼びましょう!」となったんですよ。

――あはは。

住職:それで、僕の宿でのあだ名は「せんせい」と言うことになりました。
僕も、誤解が解けてホッとしたし、ひらがなの「せんせい」なら、まあいいやと、、、。

――皆さんに、それぞれあだ名がついていたのですか?

住職:はい。ウシ、坊ちゃん、絵の人(ガイドブックの絵に似ているため)、サドゥーなど、、、。
当時の久美子ハウスは、まだできたばかり。宿泊者は十人もいないぐらいで、少なかったんです。
その内の何人かとは、日本に帰ってからも会ったし、ウシと坊ちゃんとは、今でもつき合いがありますよ。

――いまだにあるんですか?いいですね。

住職:ウシはChari-TXゲーム大好きだし、坊ちゃんには NPOアースキャラバンに協力してもらっています。

――へぇー!あ、坊ちゃんは、ブッダガヤ(第三十一回住職に聞く!)で出会った日本人青年ですね。

住職:またあの頃は、インドなんて、社会からドロップアウトしたような人間しか行かなかったんです。
一見、普通っぽい人でも、会社やめたとか、離婚したとかそんな動機で来ていましたね。

――何か、やむにやまれぬものを抱えた人が行く国だったのでしょうね、、。

単なる観光で行くところでもなさそうですし。

住職:四国の歩き遍路みたいなものかな。
何ヶ月も旅しているというのがインドの普通の旅でしたからね。
ガイドブックもようやくできばかりで、持っている人もあまりいなかったし、、、。

――それで旅人同士の連帯感というのも強かったんですね。

住職:旅人同士は、みんな仲良かったですね。久美子ハウスでもそうでした。
またその時は、インドでも極暑の5月です。
暑さのために毎晩死人が出るほどですから、よほどの変わり者でないと、インドにはいなかったと思いますよ。
だから、変わり者同士の連帯感みたいなのも加わっていましたね。

――ところで、念願のお味噌汁をいただくことができたんですか?

実は私、一ヶ月間、気になっていたんですよ(笑)

住職:いやー、それが味噌おじやとかはたまに出るんですよ。

――おお!

住職:もちろん、その瞬間は「やったー!」と、躍り上がって喜んだりするんです。
――それはそうでしょうね。そのウワサに惹かれて行かれたんだし。

それに、インスタント・ラーメンを食べたら、この世にこんな美味しいものがあったのか?と思われたぐらいですものね。

住職:それが、食べた瞬間に「?」となるんですよ。

――また、どうして?

住職:というのは、味噌おじやの味付けに、砂糖が入っていたりするんですよ。他にもインドの香辛料っぽいものとか、、、。

――なぜ、なんですかぁ?

住職:なにせ料理しているのが、下働きのインド人のおばちゃんなので、そういうことになったのだと思います。

――というと、砂糖が入っている甘い味噌おじやなんですか?するともう、完全に別物ですね。

住職:はい、だからそれを食べた時は、なんとも言えない複雑な気持になりましたね。
日本の味を期待していただけに、、、。せっかく、味噌が入っているのに、、、、と。
それでも一言も文句いわずに、皆、黙って食べていましたねー。

――どうして、誰も何も言わなかったんですか?

住職:考えてみたら、「砂糖を入れないようにして下さい」と言えば良かったんでしょうけどね。
でも、インド人のおばちゃんとは言葉が通じないし、その時は、味付けに何かを要求するという思いが、誰一人まったく頭をよぎらなかったんですよ、
多分。
少なくとも僕はそうでした。

――へぇー、、、。

住職:今考えるとね、やっぱり皆それまでの旅で見て来ているでしょ。
食うや食わずで生きている多勢のインド人乞食たちを。
だから、食べ物の味に文句言うなんて、そんな贅沢なことはできないな、
なんて無意識に思ったんではないでしょうか?

―――― 、、、。

―住職の旅の話はまだ続きます―