住職に聴く! タオサンガ篇 (5)

和田寺の住職は、タオ指圧/気心道の創始者、音楽家など、様々な顔を持つ遠藤喨及(りょうきゅう)さんです。

喨及さんにインタビューして、さまざまな質問に答えてもらいます。
一体どんな言葉が返ってくるのでしょうか・・?

遠藤 喨及
東京に生まれ、少年期をニューヨークで過ごす。浄土宗和田寺住職、タオ指圧/気心道創始者、ミュージシャン、平和活動家、ゲーム発明家など、さまざまな顔を持つ、タオサンガ・インターナショナル代表。 1990年頃より、北米各地、ヨーロッパ各地、中東、オセアニアなどの世界各地で、タオ指圧、気心道、また念仏ワークショップ等を行い始める。 また、それらの足跡によって、世界各地のタオサンガが生まれ、現在、各センターは、仏教の修行道場、タオ指圧*気心道などの各教室、海外援助を行っている。 遠藤喨及個人ブログページもご覧ください。 http://endo-ryokyu.com/blog/

 

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アースキャラバン京都2016 ステージにて

 

第五回

 

-- タオサンガの修行の中心には、音楽的でかつ瞑想的な念佛三昧があります。(これの内容については、毎週配信しているU-streamの法話ライブで詳しくお話しいただいています)
タオサンガの修行は、まるで自我に対する挑戦のようだ、と私は感じます。仏教とは、念仏とはそういうものなのでしょうか?

住職: 自我への挑戦ということであれば、そもそも幸福な人生を歩もうとすること自体が、自我への挑戦なんですよ。

-- えっ? どういうことですか?

住職: これには2つか3つの側面があります。
まずシンプルなところでは、人間は誰でも生まれ、そして死んでいくわけです。一般には亡くなることを“不幸があった”と表現しますから、死=最大の不幸なわけですね。

-- はい、、、。

住職: つまり、人間というのは不幸になることを運命づけられている存在なわけです。

-- はい。

住職: でありながら、同時に人間は、幸福を求めて生きざるを得ない。
人間という存在は、この二律背反を背負って生まれているのです。

-- たしかに、そうですね。

住職: そして、普段は日常にまぎらわして、極力死を意識しないように人間は生きています。でも人生で、それを意識する時があるんですね。

-- どんな時ですか?

住職: ひとつは思春期なんです。この時は、第二次性徴とかあって、身体がまったく変わる時です。精神的にも、それまでの自分が作り替わる時だから、両親に対してすごく批判的になったりします。まず、両親から受け継いで認識していた子どもとしての自分の世界を壊す。そして、自我を土台にした新しい世界認識を創る。そういう時期なんです。

-- はい。

住職: 人間って、13才ぐらいで精神的というか霊(たましい)的に一度老成するんです。そうすると死について考えるようになる。中には精神的に完成と言えるほどの人もいます。すると、お釈迦さまが悟りをお開きになった後に、このまま何も食べずに涅槃に往こう、とされたように、このままで終わっちゃえ、と自死する人もいます。

-- ティーンエイジャーが原因不明の自死を遂げることがあるのは、そんな精神的背景があったんですね。

住職: もうひとつの時期は、やはり病気になったときですね。
もっとも普段、日常でまぎらわして「死」を考えないようにしていても、結局人間の無意識は、自分が死ぬことをわかっているんですけどね。

-- やがて来る未来=死=不幸になることを運命づけられている存在、ということはわかっているのですね。

住職: だから人間は宿命的に、未来に対して明るい気持なんて持てないんです。一般に、ポジティブな話よりもネガティブな話の方が信じ易いのはこのためなんですね。

-- なるほど、だからなんですね。“食べて行けるように”とか、“人に取り残されないように”とか、考えてしまいがちなのは、、、。まるで「幸福になるため」よりもむしろ「不幸にならずに済むために」、あれこれ一生懸命算段しているかのようですものね。

住職: それもこれも、無意識に死を恐れるが故なんです。“食べていけなくなったらどうしよう”、と思うのは餓死を恐れるからだし、取り残される恐怖は、近代以前、人間は孤立して生きて行けなかったからです。まあ、今もそうだと言えばそうなんですが。

-- はい。

住職: 不安・恐怖を無意識に抱えながら、“不幸にならないように”算段しながら生きても、人間は幸福にはなれないんです。そもそも死がありますし、無意識に不安・恐怖を抱えて生きることになります。意識でどう取り繕ったところで、無意識を騙すことはできません。未来に必ずやって来る死を「ご不幸」から、最高にハッピーなイメージへと替えない限りは、未来に明るいイメージを持とうとしても、どこかに影が入り込むことになるんです。

-- 古今東西、宗教家が説いて来たことは、暗い死のイメージを明るいものに替えるためのものだったんですね。

住職: ただし「宗教家」とひとくくりに言っても、自称宗教家のカルトのグルから、占い師の延長のような人とかいろいろですから、難しいですね。

-- どう判断したら良いのでしょう?

住職: 不安・恐怖を与えたりする人には注意が必要ですね。
この話を始めると長くなるのでここまでにしておきましょう。で、話を戻すとですね。死=不幸になることを運命づけられている人間、ということについてですが、、、、。

--はい。

住職: 先ほどの不安・恐怖というのは、エゴを生むんですね。エゴというのは、ネガティブなものです。エゴは人間に、幸福な未来とは真逆な行動をさせるからです。だから、幸福な人生を創造するためには、エゴに従って生きるわけにはいかない。エゴを克服しなければならないんです。最初に「幸福な人生を歩もうとすること自体が自我に対する挑戦なんですよ」と申し上げたのはそういう意味なんです。

--もう少し、詳しくお話し頂けますか?

住職: わかりやすく例えると、ここに3人の人間がいて、自分のカバンにおにぎりが3つ入っているとします。明日(未来に)また食べれるかわからない、という不安があれば、黙っておくかも知れません。でも、明日(未来)は誰かが食べ物を持って来てくれるとわかっていれば、安心して2人にも分け与えることができるでしょう。

--そうですね。

住職: 未来に明るいイメージを持っている人は、明日のことも気楽に思い易いんです。だから、気前が良くなるのです。その結果、他の人からも好感を持たれます。明日には、今日与えた2人のどちらかから、おにぎりがもらえるかも知れません。またたとえ、明日すぐに見返りがなくても、他の人から持たれた好感は、自分の心の豊かさとして蓄積されます。そして、いつか外的に表現され、物質化するんです。

-- へー! 宇宙がそんな仕組みになっているとは!!

住職: でも、“食べられなくなるかも、、、”のような暗いイメージを未来に持っていると、おにぎりを自分のために取っておくことでしょう。またその暗さは、相手の無意識にも伝わります。私たちは、表面的にはわからなくても、無意識レベル(氣)では、相当のことがお互いわかり合っているのです。

-- 何だか怖いですね。

住職: その「畏れ」は、人に対してでなく、神さま佛さまに対して本当は持つべきなんですね。そうなれば、エゴの言いなりになったり、無意識(氣)が“イヤ”だと感じるようなことをしなくなりますから。

-- ?

住職: 例えば、自分のためにおにぎりを隠し持っておく、というのはエゴの発露です。これは、自分の無意識(氣)にしても、イヤな感じがしているはずです。

-- ええ、、、。

住職: 神さま仏様に畏れがある心は、私たち子供の頃に誰でも普通に持っていたんです。もしその頃に、「自分の人生を愛を持って最後までケアしてくれる存在」として、あるいは、「死の向こう側で愛を持って待っていてくれる存在」として、神や佛のイメージ・インプットができていたら、、、、、。

-- 、、、いたら?

住職: 大人になっても、未来に対して明るいイメージが持ち易いんですよ。もし「神や佛は何と言っても自分の味方だ」と、無意識レベルで感じていたら、もはや未来に何も怖いものはありません。未来に対して明るいイメージを持てれば、人に対しても優しくなれます。また気前よくだってなれるんですね。

お子さんのいらっしゃる方は、ぜひ子どもたちに、「神さま佛さまはいつだってあなたの味方なんだよ」というようなイメージをインプットするように育てて頂きたいですね。「そんなことしていたら、ロクな大人になれないよ」とか、「世間に笑われるよ」なんてネガティブなことは言わないで(笑)。

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アースキャラバン広島2016

もっとも、精神分析の創始者フロイトが言ったように、子どもは、親や周囲の大人のイメージを投影して、神(や佛)をイメージします。
だから、親が子どもに対して日頃どう接するかが、その子の無意識を形成するし、ひいては未来を創るんです。

子どもは地球の未来だから、大人が子どもにどう接するか。大人の責任は小さくないですね。

大人には、「私たちは、どんなことがあってもキミを応援するよ。
私たちは、いつもあなたの味方だよ。」という肯定的なメッセージを、言葉でも行動でも子どもに与えて欲しいですね。そうしたらその子どもは、「きっと神さまもそうなんだろう」と無意識に想うし、そうしたイメージが、その子の未来をずっと支えていくんですね。

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アースキャラバン2016京都

 

法話ライブ: https://taosangha.com/
※画面右下の「サンガTV」からご覧ください。

 

インタビュー後記

人生を明るいものにしたいという思いのある人なら、自分の無意識に不安や恐怖があるというのはある程度は自覚しているのではないでしょうか。知人の親が亡くなった時に冷蔵庫の中から何百万ものお金が出てきたという話や、老いてから施設に入らなけらばならないなら、いっそぼけてしまいたいと話していたお金持ちの友人の言葉を、笑うことができませんでした。「老後」のお金の心配がなくても明るい気持ちにはなれないものなのだと思いました。

「未来に対して明るいイメージを持てれば、人に対しても優しくなれます。また気前よくだってなれるんですね。」
という住職の言葉に、未来そのものである子どもたちに大人のエゴで歪んだ人生観を伝えてはいけないという思いを強く持ちました。

アースキャラバンのテーマ「SHARE!」を絵に描いた餅にしないために。