ーー 昨年末のダライ・ラマ法王との
謁見からはじまり、ガンジーさんの
ひ孫さんまで、インド「希望の火」巡礼の
底知れないパワフルなお話をうかがって
きました。
いよいよ今回は、その後、向かった
ムンバイ以降のアンベードカル博士と
インド仏教についてのお話
を伺ってもよろしいですか?
住職: まず、アンベードカル博士です
が、不可触民出身者でありながら、
独立後のインドが制定した「インド憲法」
を起草した人です。
(1950年)独立インド最初の
法務大臣ですね。
僕としては、小学校の偉人伝の中に
入れて欲しいぐらいの人です。
<アンベードカル博士>
ーー カースト制度の厳しいインドで、
不可触民出身者が法務大臣になるなんて、
すごい方ですね。
住職: アンベードカル博士の凄い
ところは、ちょっと簡単には語り尽く
せません。
生涯に亘って、文字通り最後の一息まで、
インドの不可触民解放のために、
自分の全てを投げ打って献身されました。
ーー それほど、不可触民の境遇が
ひどいということなのでしょうね。
住職: 僕もそうでしたが、一般に
国際社会は、カースト制度についての
認識が全く甘いというか、理解してい
ないと思います。
アンベードカル博士について学ぶと、
カースト制度の残酷さが理解できるの
です。
ーー カースト制度については、
宗教や職業と結びついた差別と
聞いていますが……?
住職: 人間を奴隷や家畜と同じにする
システムです。
ただし、単なる奴隷や家畜でしたら、
水は与えられるでしょう。
しかし水すら与えられない。
そして残虐に殺されて来たのです。
ーー 水も与えられない、というのは?
住職: 村に井戸があっても、
不可触民は立ち入り禁止なんですよ。
だから、不可触民は不衛生な水を飲んで
病気になります。
ーー なぜ、村の井戸に立ち入り禁止
なんですか?
住職: 汚れた存在として、井戸に
触れることを禁止されているのです。
ーー なぜ、汚れた存在なのですか?
住職: 日本で部落出身者のことを
「穢多」と呼び、汚れた存在として
来た史実を思い起こしたら、
理解しやすいかも知れません。
ーー なるほど。
住職: カースト制度は、
”不可触民は、過去世からのカルマに
よって、汚れた存在であり、不可触民が
触れたものは全て汚れる”という迷信を
支えにしています。
ーー 学校カーストのイジメを
思い出します。
住職: 聖典についての説教を
盗み聞きしていたというだけで、
溶けた鉛を耳に入れられた話は
有名です。
ーー 、、、、!
住職: あまりの喉の乾きに耐えかねて、
夜中に井戸の水を汲んで来たのがバレて、
集団リンチにあったり、殺されたりした
事例もあります。
子どもたちも含めて、
一族全員が生きたまま焼き殺された
例もあります。
ーー あまりにもひどい話の連続で、
絶句するばかりです。
今、現在は、どんな状況なのですか?
住職: 最近聞いた話では、
「田舎では、1分間に1人が、、、、
常にどこかで誰かがレイプされている」
とのことでした。
ーー 現在もなんですね……..
住職: 常にレイプ、暴力、
そして残虐に殺される危険に
さらされて生きているのです。
ーー 警察は犯人を捕まえないの
ですか?
住職: 村の地主は、ブラーミンという
高位カーストで、彼らがギャングを
雇います。
さらに、「不可触民だから殺されても
仕方がない」ということで警察もグル
です。
賄賂ももらっているでしょうし。
ーー どうしてそのような
理不尽なことがまかり通るのですか?
住職: カースト制度は、アーリア人の
侵入によって起こったのです。
征服者が、被征服住民を残虐に
支配する方法として、
土着の宗教を改竄したのでしょう。
それが数千年にも亘って定着し、
社会制度と結びついてしまっています。
ーー 数千年間も定着しているの
ですか、、、、。
住職: カースト制度の根拠になって
いるのが、ヒンズー教聖典の一つ
「リグ・ヴェーダ」です。
インドは、宗教と生活が融合している
ため、この部分を破棄しなければ、
差別感情はなくならない。
ーー 宗教と結びついているのが
厄介ですね。
住職: プロテスタントの祈りの中にも、
ユダヤ人に対する差別的な文言がある、
と聞いたことがあります。
ーー そうだったんですか、、、、
住職: 実際、ルターはユダヤ人を
迫害しましたし…….。
ところで話を戻すと、
アンベードカル博士は、ヒンズー教徒
である限り、不可触民解放は成し遂げら
れないとの認識に至りました。
そして1956年、数十万人の信奉者と
共に、仏教徒になる改宗式を行ったの
です。
ーー それによって、
カースト差別の苦しみからは、
解放される、、。
住職: 実際には、そう簡単には差別は
なくなりません。
長年、無意識に染み付いた迷信ですから。
ーー それでは?
住職: ただ、ヒンズー教徒でなければ、
不可触民とは定義されないのです。
人がどう観るかは別として、少なくとも、
政治的、社会的にはもはや不可触民
ではない。
アンベードカル博士は、抑圧された
人々が、不可触民というレッテルを
自ら剥がし、人間としての尊厳を取り
戻すために、仏教徒になることを
勧めたのですね。
ーー なるほど、そうなんですね。
住職: それまで仏教は、
インドでほぼ滅びていたのですが、
これを機に、仏教復興運動が始まった
のです。
ーー ほぼ滅んでいた仏教の復興、、、
アンベードカル博士は、すごい方
なんですね!
住職: 僕たちは、ムンバイに
「アンベードカル博士の火」があること。
また、インド仏教会の事務所があって、
お孫さんが会長を務められていること
などを知り、出発前から連絡を取り
始めました。
ーー そうだったんですか!
住職: 結局は、ぶっつけ本番というか、
現地で知り合った人づてに事務所に
連れていってもらい、無事に会長の
ビムラオ・アンベードカル氏にも
会うことができました。
<ビムラオ・アンベードカル氏>
ーー すごい!!
住職: それだけでなく、インド仏教会
は、「アンベードカル博士の火」と
希望の火との合祀も、人を集めて
盛大なセレモニーにしてくださいました。
また、3人のひ孫さん方も列席し、
歓談することができました。
さらに、他のお孫さん等とは、
夕食などもご一緒し、親しく語り合う
ことができました。
ーー それまた凄い展開ですね。
この後、さらにどうなって行ったのか、、
ぜひ次回、続きを聞かせてください。
インタビュー後記
インドでほとんど滅んでいた仏教を
復興させたアンベートカル博士の偉業、、。
不可触民であるということは、もう、
生きている以上、希望がない。
アンベードカル博士は、人生のすべてを
かけて、インドの不可触民全員を仏教に
改宗させたかったのだろう、、。
その思いを、現在も受け継いで
活動されている人たちがいるのだろうか?
話を聞いていて、いま、仏教徒になって
いるインドの人たちは、しあわせなの
だろうか?という思いが浮かんできまし
た。
そしてまた、ヒンズー教徒のままの
不可触民は、、なぜ、改宗しようと
しないのか?という思いも湧いてきます。
インド映画の明るさの裏にある闇の
濃さを想わずにいられませんでした。
その闇を「希望の火」が照らしている、、
そんなイメージがなぜかでてくるのでした。
次回のインタビューで、これからのインド
の仏教について、お話しが聞けるのでは
ないかと思います!