和田寺の住職は、タオ指圧/気心道の創始者、音楽家など、様々な顔を持つ遠藤喨及(りょうきゅう)さんです。
喨及さんにインタビューして、さまざまな質問に答えてもらいます。
一体どんな言葉が返ってくるのでしょうか・・?
遠藤 喨及
東京に生まれ、少年期をニューヨークで過ごす。浄土宗和田寺住職、タオ指圧/気心道創始者、ミュージシャン、平和活動家、ゲーム発明家など、さまざまな顔を持つ、タオサンガ・インターナショナル代表。 1990年頃より、北米各地、ヨーロッパ各地、中東、オセアニアなどの世界各地で、タオ指圧、気心道、また念仏ワークショップ等を行い始める。 また、それらの足跡によって、世界各地のタオサンガが生まれ、現在、各センターは、仏教の修行道場、タオ指圧*気心道などの各教室、海外援助を行っている。 遠藤喨及個人ブログページもご覧ください。
http://endo-ryokyu.com/blog/
臨時号 住職に聴く! アースキャラバン中東篇4
-- 住職、アメリカのトランプ大統領のイスラエルの首都をエルサレムにという宣言をどう思われますか?
とても不穏な感じがします。
住職: イスラエルのエルサレム占領は、国連決議に反した「国際法違反」だから、
エルサレムをイスラエルの首都として認めることは違反を認めることになります。
これは世界秩序の崩壊に繋がるので、世界中が問題視せざるを得ないことです。
-- はい、、。
住職: 最初にそのニュースを観たときは、とっさに叫んでしまったほどの衝撃を感じました。
パレスチナ国家の未来はないのか、と思って一瞬、絶望を感じました。
しかし一日経ってから、ちょっと待てよ、と思いました。
-- というのは・・?
住職: もしかしたらこれは、トランプが大統領就任早々にぶち上げた、
あの「メキシコの壁」と同じなのではないか?と。
-- メキシコ人がアメリカに不法入国しないように、メキシコとの国境全部に高さ9(17という話もあり)メートルの壁を建設する、と言ったアレですね。
住職: しかもその費用をメキシコ政府に払えと言いました。
これほど人をバカにした話はないわけですが、
そのとき僕は”あっ、こりゃ言ってるだけだな”と思いました。
-- どうしてそう思われたのですか?
住職: メキシコ政府が同意するはずないし、
人道的にも批判を浴びることだから、
現実的に考えれば不可能だからです。
とっさに僕は、イスラエルがパレスチナの全土に無数に張り巡らせている、
高さ8メートルの壁を思い出しました。
-- 分離壁ですね。
(カナダの企業が作っているという「分離壁」。
パレスチナの人々に与えるストレスは計り知れない。)
住職: そして、トランプがこんな現実的に不可能なことをぶち上げた真意はどこにあるのだろうか?と考えたんです。
-- へぇー。
住職: トランプは一見、バカなことをやっているように見えますが、
「不動産王」と呼ばれている人間ですし、
そもそも、おバカで務まるビジネスはありません。
だから、何か裏があるに違いない、と。
-- なるほど・・。
住職: トランプの大統領就任演説は以下で始まります。
「あまりにも長い間、ワシントンにいる一部の人たちだけが、政府から利益や恩恵を受けてきました。
その代償を払ったのは国民です。職は失われ、工場は閉鎖されました」
-- そうだったんですね。
住職: 多国籍企業は、多くの工場を海外に流失させ、一方で移民を安い賃金で使うことで、多くの中間層の職を失わせて貧困に追いやった。
トランプはこのことを言っているんです。
実際、今のアメリカは3人に1人が貧困と言われていますしね。
-- 世界一の経済大国が3人に一人が貧困とは・・。
住職: 移民の制限を厳しくしたのも、
多国籍企業が彼らを低賃金で使うことで、中間層が職を失い貧困に陥る、という負の連鎖を食い止めるためだった、とも言われています。
トランプの現実的に不可能なメキシコ国境の壁建設のぶち上げは、就任演説のように、軍産複合体や多国籍企業に対する宣戦布告だったのではないか、と思ったんです。
-- なるほど、、、。
住職: 一方でトランプは、海外にある米軍基地を縮小しようとしています。
実際、フィリッピンからは撤退しました。
アメリカは世界中に軍隊を派遣し、また戦争することで多額のお金が軍産複合体に流れる仕組みになっています。
それによって利益を得るのはアメリカ国民ではなく、1%の株主です。
アメリカが世界中に基地を持っているのはそのためなんです。
-- その1%の株主のために・・?
トランプはその構図を崩そうとしている・・?
住職: トランプは、少なくともアメリカ国民の生活を守ろうという、アメリカ第一主義者。アメリカ・ファーストなんです。
軍産複合体と決別するには、今までアメリカが行って来た「軍事力を背景に世界をコントロールする図式」を終わらせなければなりません。
トランプの意図は、まさにそこにあると思いますね。
-- でも実際アメリカは、大量の武器を軍需産業に注文したりしていますよね。
住職: リンカーンが暗殺されたのは中央銀行を廃止しようとしたからと言われています。
また、ケネディが暗殺されたのは、中央銀行の廃止と
ベトナム戦争を止めようとしていたから、とも言われています。
アメリカは、政治家にお金を出す株主たちが強大な力を持っていて、
大統領が普通に暗殺される国なんです。
トランプにしても、自分が暗殺されないようにしなければなりません。
時に軍産複合体に調子を合わせたかのような、目くらまし的な行動を取りながらやっていると思いますね。
-- そうだったんですか・・。
住職: トランプがマクドナルドなどのファーストフードなどばかり食べていると聞くと、”もしかしたら、この人はマスコミが言うように本当にバカなんじゃないだろうか?”と思ったりもしますけどね。(笑)
-- はは!
トランプは自ら道化を演じているのだろうか?
住職: ただ、トランプには表向きの行動と裏の行動があるし、欧米マスコミ報道ほどアテにならないものはないことは、当のアメリカ人が一番わかっていることだと思います。
-- そうなんですか?
住職: トランプが大統領選に勝ったのは、もはやアメリカ国民が大手マスコミを信頼しなくなったため、と言われています。
ここで先ほどの話に戻りますが、
今回のトランプのエルサレムへの大使館移転宣言は、メキシコ国境の壁と同じで、現実的には不可能なことです。
-- あっ、なるほど。
・・でもそうなんですか?
住職: すでにアメリカ国務長官か何かが、移転は2018年にもできないだろう、と言い出しています。
国連の常任理事会でも、アメリカを除く全14か国が、トランプに撤回を要求しています。
国連全体で否決されるでしょう。
こんな状態で大使館移転などできるはずがありません。
-- それも、そうですね。
住職: ただね。僕はトランプがこうなることを予測していた上で、ぶち上げたような気もするんですよ。
娘婿だってユダヤ系だし、それぐらいの予測ができなかったはずがありません。
それに僕は、このことを必ずしも悪いとばかりは取っていないんです。
-- えーっ! またどうしてですか?
住職: 世界中から非難されることで、アメリカが大使館の移転を断念したとします。
すると首都認定など何の意味もなくなるし、もう二度と大使館移転の話を蒸し返すことはできなくなります。
-- はい。
住職: それでも、大使館移転を強行しようとするかも知れません。
でもその場合、海外在住、特にイスラム圏に住むアメリカ人やアメリカ大使館への警備費用など、大変な負担がかかることを覚悟しなくてはなりません。
だから現実的には無理だろう、とは思います。
でもこれによって起きる大きな変化があります。
それは、これまで世界に誇示していたアメリカの威信が完全に地に落ちることです。
-- あっ、そうですね!
住職: もはや、アメリカが中東和平の舵取りをすることは決してできないでしょう。
おそらく、ロシアに譲ることになります。
トランプの真の意図は、自分がバカなことを言動を取ることで、アメリカが世界に対して発言権を持てないようにすることではないかと思います。
-- 自ら道化を演じているということですか?
住職: 少なくとも、その可能性はあると思っています。
-- それにしても、なぜまたアメリカの威信を地に落として、発言権を失わせるのですか?
住職: 威信もなく、発言権もなくなれば、今までのように正義の旗を振りかざして軍事力を駆使することなどできなくなりますからね。
その結果、軍産複合体の力は弱まります。
また軍事基地とセットだった海外への援助金を縮小すれば、それを自国民のために使うことができることになります。
これは”アメリカ・ファースト”、すなわち自国民の生活を最優先するという、トランプの公約の一環ではあるのです。
-- ああ、なるほど、、、。
住職: もちろん、本当にバカでやっていることかも知れません。
でも結果的にアメリカは、多国籍企業にとってうまみのある、世界の覇権国としての地位を失います。
アメリカ・ファーストとは、多国籍企業よりも自国の産業を大事にする、という意味でした。
決して不合理なことを言っていたわけではないのです。
-- そういう見方もあるんですね、、、。
住職: 大手マスコミは多国籍企業が株主になっていますから、トランプに対するネガティヴ・キャンペーンを張るのは当然です。
また、たたでさえ少なかったトランプの味方の閣僚は、どんどん追放されていき、もはやほとんどいない状態です。
-- どうなるんでしょうか、、、?
住職: 敗退して、結局言いなりになることもあり得ます。
エルサレムの首都移転宣言は、中東を不安定にしておきたい軍産複合体にとっては願ったり叶ったりです。
だから、トランプは敗退したのだ、と観ることもできます。
でももしこれが、”世界の反対でできませんでした”という結果になれば、意図したかどうかは別にして、軍産複合体の力を削ぐことになります。
-- どうなるか分からないところはハラハラしますね。
世界中で中東問題が議論される機会が作られた
住職: トランプの意図がどこにあるかわからないところも、ですね。
エルサレムの首都移転宣言の副産物は、世界中で中東問題が議論される機会が作られたことです。
意図されたかどうかは別として、結果的にはパレスチナのことが大変話題になった。
中東のことを学ぶ人は増えたと思いますね。
イスラエルとしては、国際社会の一般の人にはとても知られたくない、パレスチナ占領の実態が隠せなくなりつつあります。
-- それは願ったりですね。
住職: もっとも、佐藤優さんなどを使って現状を誤魔化そうと、躍起になっていますけどね。
-- 佐藤優さんって、あの元外務省でクリスチャンの・・?
住職: “ハマスがガザを占領して分離壁を作った”など、完全に間違っていることを平気で書いていますね。
注:呆れた佐藤優氏の話
http://www.1242.com/lf/articles/83601/?cat=politics_economy&pg=asa
-- えーっ!?
そんな基本的な間違いを知らないはずないでしょうしね!?
イスラエル政府の秘密警察「モサド」にでも、非公式に雇われているのでしょうかね?
住職: トランプの首都認定・大使館移転宣言によって、パレスチナでもデモが激しくなりました。
それによってイスラエル軍に撃たれて何人もの人が死んでいます。
先日、ガザの非暴力抵抗運動の象徴だった車椅子のイブラヘム(29歳)もイスラエル兵に撃たれて亡くなりました。
-- そんな・・・。
住職: 多数の怪我人も出ています。
いわれなき理由で逮捕される若者や子供たちも後をたちません。
また昨夜、非暴力抵抗運動のアイドルだった16歳の女の子アヘドも、深夜イスラエル軍に寝込みを襲われ、殴られて連れ去られてしまったそうです。
-- そんな、、、。
住職: 僕が夏にナビサレ村で、アースキャラバン中東のことを話し合った彼女の叔父さんが投稿していました。
世界人権問題のサイトも、その時の映像をアップしています。
https://www.facebook.com/ajplusenglish/videos/1106429412831898/
-- まるでナチス時代のゲシュタポのようで、言葉もありません、、、。
住職: 話を戻すと、トランプは稀代のトリック・スターなんですよ。
-- トリック・スター?
住職: ユング心理学の概念で、神話などに出てくるいたずら者の妖精などです。
現状を破壊して新しい状況を作る象徴的な存在のことを言います。
トランプについて語るとき、人が感情的になり易いのもこのためだと思います。
-- あ、なるほど。
住職: トリックスターとして現状を破壊して新しい展開を作る、
という使命を歴史に負わされているのがトランプだと思いますね。
-- そういう風に受けとめることもできるんですね。
住職: ただ、軍産複合体の力は強大です。
オバマは頑張ったけど負けて、アメリカ国民を不幸にする多くの法案にサインしてしまった。
トランプもきわどい綱引きをやっている状態だとは思いますね。
-- なるほど、、、。
住職: トランプが就任演説で語ったことが本当に実現されるのかは、まだわかりません。
閣僚は敵ばかりだし、危ういとは思います。
ただ僕は、医療費や教育ローンで貧困やホームレスに陥っているアメリカ国民のことを考えると胸が痛いです。
また、戦場で精神を病み、自殺していくアメリカ人の話をこれ以上聞くのは忍びないのです。
-- 本当にそうですね、、、。
住職: アメリカ国民の幸福への願いを捨て切れないから、トランプには何としてでも就任演説で語ったことを実現して欲しい、そんな想いが強くあります。
-- なるほど、、、。
住職: だから、トランプに対するネガティブ・イメージを展開するマスコミと一緒になって”トランプ最悪!”と叫ぶ気には、とてもなれません。
軍産複合体が牛耳る国で大統領になるなど、普通だったら、彼らの御用聞きになるか暗殺されるかの二択しかありませんし、、、。
僕としては、最後まで冷静に見届けたい、というのが正直なところですね。
-- そうなんですね、、、。
16歳のレジスタンス少女「アヘド」はどうなるのか?
住職: 最後に中東に関して言えば、
トランプがぶち上げたエルサレム首都認定・大使館移転問題をきっかけに、
世界中の人がイスラエルによるパレスチナ占領が国際法違反であることや、
ナチスのユダヤ人政策と変わらないほどの人権侵害が行われていることも知って欲しいですね。
1日も早く、イスラエルの占領支配によるパレスチナ人の苦しみが終わることを願わずにはおれません。
-- そうですね。
住職:先ほどの16歳のレジスタンス少女「アヘド」ですが、
彼女は、自宅に侵入しようとしたイスラエル兵に平手打ちを食らわせたのです。
-- どうしてイスラエル軍の兵士が、家に押し入ろうとしたんですか、、、。
住職: 彼女の家の中から、銃で子供を狙うためだったそうです。
アヘドは身体を張って、それを阻止したのです。
その映像が拡散されました。イスラエル政府はこれによって抵抗運動にはずみがつくことを危惧したのでしょう。
イスラエルの教育省の役人がこの案件について、“あの娘を一生外に出すな”的な発言をした、という新聞記事(イスラエル左派の新聞”ハーアツ”)もありました。
-- あまりにもひどいですね、、、。
住職: いくつもの罪状を上げられ10年拘束されるかも知れない、という話もあります。
17歳の時にイスラエル軍に石を投げて捕まり、刑務所に入れられ拷問された、という体験者の話も聞いています。、、、ただただ、心配でなりません。
<インタビュー後記>
現在も、ほとんどの人は中東問題を、「宗教間の争い」と思っているのではないでしょうか・・?
とにかく複雑な事情があるようだ、と。
住職がパレスチナを訪れるようになり、このインタビューではじめてパレスチナの現状を知り驚きました。
真実がメディアからほとんど伝わってこないことにも驚きました。
そして今回の「中東篇」(1~4)で住職のお話を伺い、
中東の話からはじまって、結局はひとりひとりがどのように生きるか?
何を自らの判断基準にしていくのか?
何が大切なのか?
そういう、どこかに置き去りにしてきた問いを、もう一度自分に問うところからなんだと思いました。
かわりに答えてくれる人はいないのですから・・。
来年のアースキャラバンのお話を伺うのを楽しみに待ちたいと思います。