和田寺の住職は、タオ指圧/気心道の創始者、音楽家など、様々な顔を持つ遠藤喨及(りょうきゅう)さんです。喨及さんにインタビューして、さまざまな質問に答えてもらいます。
一体どんな言葉が返ってくるのでしょうか・・?
遠藤 喨及
東京に生まれ、少年期をニューヨークで過ごす。浄土宗和田寺住職、タオ指圧/気心道創始者、ミュージシャン、平和活動家、ゲーム発明家など、さまざまな顔を持つ、タオサンガ・インターナショナル代表。 1990年頃より、北米各地、ヨーロッパ各地、中東、オセアニアなどの世界各地で、タオ指圧、気心道、また念仏ワークショップ等を行い始める。 また、それらの足跡によって、世界各地のタオサンガが生まれ、現在、各センターは、仏教の修行道場、タオ指圧*気心道などの各教室、海外援助を行っている。 遠藤喨及個人ブログページもご覧ください。http://endo-ryokyu.com/blogs/
ーー 7月末から8月にかけて開催された、
今年で4回目となったアースキャラバン中東
についてお話を聞かせていただけますか?
日本からは13才の女の子も参加したと聞き
ましたが、今年は何人ぐらいの参加者があっ
たんですか?
住職: 日本、オーストリア、スペイン、
カナダ等からの参加があり、総勢33人でし
た。
13才の日本人の女の子の他にも、11才の
オーストリア人の女の子も参加していました。
ーー “パレスチナに子供たちを連れて行く
なんて、危なくないんですか?”って言われま
せんでしたか?
住職: 危険だったら、そもそも人なんか連
れて行きませんよ。
ーー (笑)、それもそうですね。
現地ではどんなことをされたのですか?
住職: 初めて参加する人のために、初日は、
イスラエルの軍事占領によるパレスチナ各地
の被害や惨状を見て回るスタディーツアーを
します。
その他、難民キャンプの子供達に日本文化を
体験してもらうなどもありますね。
ーー 現地のパレスチナ人の人たちとの交流
もあるんですね。
住職: 内容が盛りだくさんなので、ちょっ
と一言では言えないんです。
最近は、市の行政とタイアップしてイベント
したり、土方仕事して汗を流すなど、現地の
人と一緒に仕事するということも増えてきま
したね。
ーー 占領の実態を見て回るスタディ・ツア
ーでは、現地のパレスチナ人の生の声も聞け
るんですね。
どんなところを巡るのですか?
住職: 今回、まず最初に巡ったのは東エル
サレムです。あまり知られていないですが、
エルサレムは東西に分かれていて、イスラエ
ル人(西エルサレム)、パレスチナ人(東エ
ルサレム)は、それぞれが別世界に住んでい
るようなものなんです。
ーー 別世界・・?
住職: 例えば一般のイスラエル人は、
「東エルサレムに行ったらテロリスト(パレ
スチナ人)に殺される」、というイスラエル
政府のプロパガンダ(宣伝)を本気で信じて
いて、まず足を踏み入れません。
ーー そうなんですか、、、?
住職: 僕なんかは、東エルサレムに入ると、
ホッとして呼吸が楽になるぐらいなんですけ
どね。
洗脳による思い込みって、つくづくすごい
な、と思います。
もっとも、少し前に日本政府が煽っていた、
“北朝鮮がミサイル撃って来る!”というプロ
パガンダ(宣伝)を信じていた日本人も多か
ったのですから、あまりイスラエル人のこと
を笑えませんけどね。
ーー 「パレスチナ人はテロリストで、
パレスチナは行くと危険なところ」というイ
メージは、イスラエル人だけでなく、世界中
の人が抱いていますが、それもメデイアによ
る刷り込みで、実際には違うんですね?
住職: 海外の人間が一般的に体感するのは、
“イスラエル側にいるよりも、むしろパレスチ
ナ側にいる方が緊張感がなく、よほど平和で
居心地が良い”というものです。
イスラエル人の活動家もそう言いますね。
ーー どうしてイスラエル側とパレスチナ側
では、そんなに体感が違うんですか?
住職: 先ほど申し上げたように、ほとんど
のイスラエル人は、“パレスチナ人は全員が
テロリスト。自分たちを皆殺しにしようとし
ている”。そう、思い込んでいます。
ちょっと想像してみて下さい。「つい数キロ
先に住んでいる数百万の人間が、自分たちを
殺そうと虎視眈々と狙っている」そう思って
生活しているのです。
すごい緊張感でしょう?
ーー たしかにそうですね。
それが、子供の頃から刷り込まれているとし
たら、、。
事実としか思えなくなるでしょうし、、。
住職: ところがテロリストと思われている
パレスチナ人は、どっちかというとお人好し
で、穏やかな人間が多いんです。
イスラエルとは逆で、空気が温かいんです。
人々は、信じられないような酷い仕打ちを受
けているにも関わらず、どこかほんわかして
いて、ピリピリした感じではないんですね。
ーー イスラエル人に対して憎しみを抱いて
いるわけではないんですか?
住職: 中にはそういう人もいるのでしょう
けど、あまりそういう人に会ったことはない
ですね。
自分の家族が殺された人でさえ、怒りや憎し
みを抱くというよりは、深い悲しみに耐えて
いる、という感じですね。
このためか、その分だけ人の苦しみに対する
共感やいたわりの気持ちも強いんです。
パレスチナ人と付き合っていると、時間にル
ーズだったり、メールの返信が遅かったりし
て、イライラすることも結構あるんです(笑)。
でも、多くの人は知的レベルが高くてユーモ
アもある。
その上、気前が良くて共感性のある人が多い
から、僕にとってはつき合い易いですね。
ーー へぇー! なんというか、、
これまで私たちが刷り込まれているパレスチ
ナ人のイメージとは、ずい分違いますね、、。
住職: インドみたいにタクシーに乗ると
ぼられるということもないですしね。
どころか、僕みたいな見知らぬ外国人を、
ただで自家用車に乗せてくれたりします。
だから、特に緊張感もなく旅できる、
というより、海外を旅している、という感覚
すら段々、希薄になりますね。
ーー イスラエルではそういうことはないん
ですね。
住職: イスラエルではまずないですね。
イスラエルは、日本や西欧諸国と同じですよ。
人間同士の温かい交流は、もしかしたら、パ
レスチナ独特のものかも知れませんね。
それにイスラエルではほとんどの人が、
「自分たちは狙われている」という刷り込み
で緊張しています。
街の至る所に、そこはかとない緊張感や洗脳
の気(エネルギー)が漂っている感じすらし
ますね。
ーー イスラエル政府が国民にそのような刷
り込みをする目的は何なのでしょうか?
住職: そもそも、パレスチナの土地から
パレスチナ人を追い出して建国したのが
イスラエルです。
その上、イスラエル政府は、パレスチナ全土
からパレスチナ人を追い出し、すべてをイス
ラエルとしたいんです。
そのために今も尚、パレスチナの軍事占領を
続け、民族浄化しているのです。
ーーイスラエルとパレスチナの「対立」や
「紛争」ではなくて、イスラエルによるパレ
スチナの「占領」と「支配」、そして「追い
出し」と「民族浄化」なんですね。
住職: イスラエル政府は、パレスチナの
土地の掠奪とパレスチナ領内にイスラエル人
入植地の建設を続けています。
それは、パレスチナの独立を阻止して、人々
を追い出し、パレスチナ全土をイスラエルの
領土にするためなんです。
ーーなるほど。
住職: イスラエル政府は少しでもパレスチ
ナ人を減らしたい。
直接的に多くを殺せば国際問題になります。
だからできれば、パレスチナ人が自分から出
て行くようにしたい。それでイスラエル政府
は、パレスチナ人の生活が不便になるよう
に、様々な苦痛を与えているんです。
ーー 、、、例えば、どんなことでですか?
住職: パレスチナ全土の各地に、高さ8メ
ートルの分離壁を造り、パレスチナの各街を
それぞれ牢獄のような状態にしれいます。
人々はイスラエル兵が監視する検問所を通ら
ないと隣の街にも行けません。
ということは、例えば30分で行ける学校や
仕事場また病院に、たどり着くのに何時間
もかかるようになってしまったのです。
ーーそれは、何ともまあ大変ですね、、、。
住職: また、パレスチナ人が所有している
家屋や学校をどんどん破壊しています。
それはパレスチナ人に、“もうパレスチナでは
生きていけない”と思わせるためです。
催涙弾や臭気液体を、住宅街に撒くこともあ
ります。
さらに毎晩、イスラエル兵を夜中に、どこか
の一般家庭に押し入らせ、家族全員を叩き起
こして尋問しています。
子供を拉致して収容所に入れ、何ヵ月も時に
は何年も返さないこともあります。
ーー 酷いものですね、、、。
住職: これらの行為のすべてが、パレスチ
ナ人に独立を諦めさせるためです。
そして、どれ一つ取っても、本来ならば道義
上できないことです。
国際社会にも国民にも、自らの行為の正当性
を主張することはできません。
ーー パレスチナ人に犯罪を行っているイス
ラエル兵自身は、自らの行為をどう思ってい
るのですか?
住職 : “子供も含めてパレスチナ人は皆、
悪魔のテロリストだ。自分は悪魔のような
テロリスト達からイスラエル国民を守ってい
るんだ”と思っています。
だから、どんな酷いことでも平気でできるん
です。
ーーイスラエル政府が国民に刷り込みを行っ
た結果なんですね。
住職: また、国際社会に対しても、プロパ
ガンダ(宣伝)によって真実を捻じ曲げ、
人々に目くらましを行っています。
ーー 目くらまし?
住職: 例えば、「イスラエルとパレスチナ
の対立と紛争は、2000年前から続いてい
るユダヤ教とイスラム教の宗教対立である。」
という刷り込みも、その目くらましの1つで
す。
ーー そう思っている人がほとんどですよ!
まるで、信じ切っています。
住職: 笑い話にもなりません。
ーー はー、、、。
プロパガンダによる刷り込みというのは怖い
ものですね。
住職: パレスチナ問題に関しては、歴史の
改ざんも含めて、真実をごまかし、ウソを刷
り込むための数々のプロパガンダ(宣伝)が
為されています。
“パレスチナ人はテロリスト”というイメージ
もその1つです。
イスラエル政府は、プロパガンダによって国
際社会にも自国民にも、自分たちが行ってい
る略奪、虐殺、迫害が、あたかも自衛的行為
であるかのように思い込ませているのです。
ーーそうだったんですね、、、。
住職: 「パレスチナ問題」という言葉その
ものも、目くらましの1つだから、本当は使
いたくないんですけどね。
ーーえっ、そうなんですか?
住職: 「パレスチナ問題」を起こしている
のは加害者のイスラエル政府であって、被害
者のパレスチナ人ではないですからね。
本来ならば、国際社会がイスラエルに対して
制裁措置を取るなどして、国際法を守らせる
べきなのです。
だから、本来は「イスラエル問題」なんです。
それを、「パレスチナ問題」と言語変換する
ことによって、原因を作っているのがイスラ
エルであることを曖昧にしているんですね。
ーー イスラエル政府は、東エルサレムに住
んでいるパレスチナ人に対して、どのような
差別や迫害を行っているのですか?
住職: 差別に関して言えば、例えばパレス
チナ人はイスラエル政府に税金を払っている
にも関わらず、行政サービスを受けられません。
パレスチナ人が運営していたに産業はすべて
イスラエル政府に乗っ取られていますから、
仕事もない。
得られたとしても低賃金の奴隷的労働しかあ
りません。
ーー そんな、、。
知りませんでした。
住職: パレスチナ人の家には、必ず水を溜
めておくタンクがあります。
それは、イスラエル人には毎日供給されてい
る水が、パレスチナ人には月に1、2回しか
供給されないからです。
ーー えっ。
月に1、2回?
住職: 迫害はさらに酷い。
例えば、パレスチナ人は代々自分の家に住ん
でおり、土地の権利書もちゃんと持っていま
す。
にも関わらず、イスラエル政府に強制的に追
い出されたり、ブルドーザーで破壊されたり
するのです。
今回のアースキャラバンでは、自宅の立ち退
き要求を受けている家族に会って、話を聞き
ました。
ーー そんな、、、。
住職: 赤いTシャツを着て杖をついている
のが、強制立ち退きを請求されているカリム
氏です。
ーー はい、、。
住職: カリム氏は、ある日突然、イスラエ
ルの裁判所から立ち退き請求を受けたんです。
その書類には、彼の亡くなった母親のサイン
入りで、「自分の家の権利を放棄する」と書
いてあっていたそうです。
書類はもちろん偽造です。
ーー そ、そんな、、。
そんなことがまかり通るって、ひどすぎます。
住職: その人の話を聞いている時に突然気
づいたのですが、目の前が、やはりイスラエ
ル政府の強制立ち退きを受けた、パレスチナ
人家族の家でした。
その家族は2009年、イスラエル軍に引き
ずり出されて路上に放り出されていたのです。
ーー 路上に・・?
住職: 僕はちょうどその時、その路上に居
合わせ、その家族への聞き取り調査を行いま
した。
そして同行していたカナダ・メンバーのロー
レンスと共に、家族にボランティア指圧をし
たんです。
ーー はー、、、。
住職、2009年にもパレスチナにいってい
たんですね。
住職: これは、その時の写真です。
この家族は、イスラエル軍に家を強制的に
立ち退かされました。
左がお母さんですが、イスラエル兵に腕を捻
じ上げられて路上に放り出されたそうです。
また、高校生の娘さんは、イスラエル兵に殴
られて前歯を折られたそうです。
あまりの惨状に、思わず僕は、
”少ないけど、、”と言ってお金を差出そうと
したんです。
すると、“お金はいらない。あなたが自分の
目で見たことを世界に伝えて欲しい”と、言
われました。
ーー そんなことがあったんですね、、。
住職: 指圧して上げたこんな小さな子供ま
でが、無理やりホームレスにさせらていまし
た。
自分の家なのに、半径200メール以内への
立ち入り禁止を言い渡されて、、、。
目の前にある、2日前まで住んでいた自分の
家には、ユダヤ教原理主義の家族が入居し、
屋根には15才の少年がライフルを構えてい
ました。
ーー そんなことが、、、。
住職: 初めてのパレスチナ体験でした。
僕は、イスラエル政府がパレスチナ各地で行
っている数々の犯罪行為を目の当たりにし
て、激しい衝撃を受けていました。
ーー そうだったんですね、、、。
住職: 思えば、その時の体験が、今のアー
スキャラバン中東の活動に繋がっているんで
す。
僕は今夏、いつのまにか9年前のあの路上に
戻って来ていたんです。
”あなたが自分の目で見たことを世界に伝えて
欲しい”。
僕にとっては、あのお母さんに言われたこの
言葉が、アースキャラバン中東の原点なんで
す。
「催涙弾を受けて知るパレスチナの涙」
https://endo-ryokyu.com/wp-content/uploads/2017/07/dana.pdf
2009年、浄土宗平和協会の機関紙「ダーナ」
に寄稿した記事
<続く>
インタビュー後記
今回、ア―スキャラバンの原点のお話を聞か
せていただきました。
暴力を受けて路上にいきなり放り出されて、、。
それまで暮らしてきた家に二度と戻ることが
できない、、。
そうする側の人間は、洗脳されているから心
の痛みも感じない、、。
住職からイスラエル政府の話を聞くたびに、
あまりの非道さに強い怒りを覚えます。
“そんな酷いこと、よくできるもんだ!”、と。
“自分たちユダヤ人がされたことを、今度は
パレスチナの人たちにやって、気が済むのか
い!?”、と。
ですが、これはイスラエルという国を嫌いに
なれば気が済むというようなことではない、
、、。
これはじぶんの心のことを言われている、、
そんな不思議な気持ちがしてきました。
“私たちは、イスラエル政府がパレスチナ人
に対して行っている犯罪的なことを、日常的
にこころの中で行い、自分を正当化し、見て
見ぬふりをし、他を貶めている。
にも関わらず、自分は被害者の気分で平気な
顔をしているんじゃないか?”と、、、。
世界で起こっていることは、こころで起こっ
ていることだとしたら、それは、どういうこ
となんでしょう?
いままで住職にくり返し聞いてきたことかも
知れないのですが、さらにうかがっていきた
いです。