「癒しものがたり」アーカイブ 糖尿病と”甘い誘惑”

糖尿病の幼なじみ

「もう、ずっと肩が痛いらしく

腕が上がらないようなんですよ。

大工なんです。

彼は身体がデカいので大変なようです。

幼なじみなんで、よろしくお願いします!」と、

よく患者さんを紹介してくれるY子さんから

電話があった。

数日後、やって来られたAさん。

確かに頑健な身体つきだが、

声は甘く、優しそうな顔立ちだった。

なので、大工の棟梁と聞いた時は驚いた。

でも学生の頃は、柔道の国体選手だった

らしい。

「3年前に五十肩をやったんですよ。

最初は右肩で、そのうち、今度は左

肩が痛くなって。でも1年くらいで、痛みも

無くなったんで治ったと思ってたら、

3か月位前から、また右肩が痛み出して

今は痛くて腕が上がらないんです・・・。」

 

―― その様子では仕事で重いものは

持てないんでしょうね・・・。

 

「いや、まだ半人前の息子と二人だけで

やってるもんで、重いものも持ちますし

運びます。

なるべく左肩で持ったり背中にのせたり

腰にのせて運んだり・・・。」

診療カードには、肩痛以外に

「糖尿病」と記してあった。

合併症はないと言われる。

 

―― 甘いものは、好きですか?

「はい、大好きなんですよ!!

毎日、何かしら食べてますね。

アルコールが駄目なんで、

どうしても甘いものに走ってしまいます。」

 

―― 糖尿病で、甘いもの大好きですか、

それは困りましたね・・・。

肩の痛みも、多分、

白砂糖が影響してる気がします。

大好きな甘いものをやめない限り、

肩の症状は完治しないと思いますよ。

 

「うーん、Y子からも甘いものは

やめろやめろと、

うるさく言われてるんですよ。

分かっちゃいるんだけど、

幼なじみだから

『そんなの無理、やめられない』って

つい言い返してしまうんですよ・・・。」

 

―― Y子さんの言ってることは間違って

ないです。

Aさんのことを本気で心配されてると

思いますよ・・・。

 

そして、私は、苦い体験を思い出し始めて

いたのだった。

 

Y子さんのご主人も糖尿病だった

 

実は、Y子さんのご主人Sさんも、

以前、数回タオ療法を受けに

来られていた。

その時は糖尿病の合併症で左目の

視力をほとんど失なっていた。

Sさんはかなり前に、ある病院に入院し、

長い間インシュリン、その他沢山の薬を

飲み続けていたのだが、

かえって体がおかしくなり、

その後別の病院で診てもらったところ、

明らかに薬害だと言われ、薬を一切や

めたということだった。

それからは、肉や白砂糖はやめ

Y子さんの心のこもった食事療法と

空気の綺麗な砂浜を毎朝散歩し、

血糖値は一時正常値まで

下がったのだった。

SさんとY子さん夫婦は、従業員数名の

小さなレストランを経営されていた。

はじめて二人でセンターに来られた時、

「主人は、元々、美食家で甘いものも

大好きで、私がいない時に、

こっそり肉やら何やら食べてるんですよ。」

と言い、Sさんの顔を見て微笑んでいた

Y子さんの姿が忘れられない。

しかし、その後Sさんが亡くなったと

電話があった。

調理場で手伝ってる最中に倒れ、

病院に搬送されたが、意識は戻らず、

深夜そのまま息を引き取った

ということだった。

死因は脳梗塞だった。

「主人は、タオ療法に行くのを

楽しみにしてたんですよね。

一回目の時から気に入って、

あそこは気がいいからって・・・。」

「でも、コック長が新しいメニュー創りに

凝り出すと、味を確かめるって、

やっぱり、相変わらず美味しいもの

食べてたんです。」

ショックだった。

残念でならなかった。

二回目に来院した時、Sさんは、

「道場を見せていただいても

よろしいですか?」と言われ、案内した。

「・・・いいですね、

落ち着きますね・・・。

私も仏教が好きで、お金が貯まる

と永平寺の若い坊さんなんか

引き連れて、中国の道元禅師が

修行されたお寺に行きましてね、

そこの坊さんに何体も仏像を

彫ってもらって、日本に持ち帰り、

皆さんに差し上げたりしてました・・・。

ここで修行されるんですか?」

 

―― はい、みんなで念仏したりします。

 

「・・念仏・・・ですか。」

 

Sさんは、念仏をしたかったに違いない、

そう思った私は、亡くなられた後、

Sさんの魂が道場にいる、と想像し、

しばらく一緒に念仏した。

ほんとに一緒にいるような気がし、

Sさんも喜んでくれているような

気がしたのだった。

祈りながら施療

Aさんに、伏臥になってもらい

右肩甲骨周辺を軽く抑えていくと

「痛いっ!」と、腫れものにでも

触られたように痛がる。

肝、胆の経絡が

相当ダメージを受けているかもしれない。

傷ついた経絡が、如来様の大愛に触れ

癒されるよう、祈りながら施療する・・・

起き上がってもらい、

痛みと腕がどれくらい上がるか、

確かめていただく。

 

「・・・エッ?痛くないです。

エッ、こんなに上がらなかったですよ?!」

 

少しは、楽になっていたが、

仕事柄、腕、肩も酷使されているようだし、

まだまだ深いところの歪みが

残っていると思った。

 

―― 甘いものはなるべく息子さんに

任せて、Aさんは肩を大事にされて下さい。

 

しかし中々そうはいかない様子だったので、

 

―― とりあえず、しばらくは2、3日おき

に、タオ療法を続けてみて下さい。

そして、息子さんを一人前の大工にする

責任があるのでしょうから、

息子さんのために病気を治して

元気になる、そんなお気持ちで

タオ療法を続けてみて下さい。

 

―― それと、もう一つ、くれぐれも

“甘い”誘惑に負けないでくださいね。

と私は伝えたのだった。

(記/長谷川 友信(東京))